「ヘータの木」の巻
秩父にはヘータと呼ばれる木が山野に自生している。湿気があって、しかも水はけのいい場所を好むらしく、谷や沢に近い崖縁などに多く見られる。しかし、ヘータと聞くと、どうも立派な建材などはイメージし難くて、何だか気の毒な感じのする呼び名である。
近年「秩父メープル」の話題が、マスコミでよく取り上げられているが、これは特定非営利活動法人『百年の森』の活動の一環として設立した『秩父樹液生産協同組合』の人々が、カエデの樹液を採取して作る和メープルシロップの事である。
秩父地域内には20種類以上のカエデが自生しているというが、その中で樹液を主に採取するイタヤカエデが、何とヘータの木だったのである。役立たずどころか、こんな素晴らしい特徴を持つ木の名は、実は昔の生活必需品だったヘギイタが訛ったものだった。今は全く姿を消したが、板を薄く削ったヘギ板は、食物などを包むのに無くてはならない梱包材だったのである。