「てんぐるま」の巻
子どもは肩車が好きである。突然目の前の景色が変わる事に新鮮な驚きがあるからだろう。秩父ではこれをテン車といった。どちらも車なのは何故かというと、江戸川柳に「肩車回りはじめは鎮守なり」という句があるように、元は神前に参るために身を清めた子どもに、不浄な土を踏ませないようにと、車に乗せたことに由来する。
皇族や貴族は我が子の宮参りを御所車に乗せて行ったが、その風習が広がっても、御所車など持つはずのない庶民は、せめて親や家族が肩に乗せて、肩車と称したのである。江戸時代になると豪商などは「肩車嫁入りほどの支度なり」と詠まれるほど、女子の七歳の祝には大金をかけた。この肩車は帯解き祝いの宮参りの代名詞である。
秩父でこれをテン車というのは、肩に乗せたこの足を支える手に力点を置いた呼び方である。「手の車」を「手ん車」と言うのは「竹の棒」を「竹ん棒」という、秩父の普通の言い方である。